フリーライターとして独立して6年。企業のトップや起業家、スポーツ選手など、これまでさまざまな分野の方にお話を伺ってきました。教育系ライター・三浦真帆です。
正直に言うと、私は最初から教育畑の人間ではありません。出版社で編集者をしていたころは、もっぱらビジネス書やキャリア系の記事を担当していました。教育分野の取材を始めたのは、独立後に受けた仕事がたまたまきっかけで、そこからずるずると引き込まれた格好です。
でも、その「ずるずる」が今ではすっかり本業になってしまいました。なぜ教育系リーダーの取材にこんなにもハマっているのか。同業のライター仲間にもよく聞かれます。この記事では、私自身の体験を振り返りながら、教育系リーダーの取材が持つ独特の面白さをお伝えしたいと思います。
目次
教育系リーダーとの出会いは偶然だった
独立して間もないころ、あるビジネス誌から「学校経営者のインタビュー記事を書いてほしい」と依頼がありました。聞けば、ある私立中高一貫校の校長先生が、異業種から転身して学校改革を進めているというストーリーを取り上げたいとのこと。
「学校の先生の取材か。ちょっと地味かもしれない」。失礼ながら、最初はそんなふうに思っていました。ところが実際にお会いしてみると、予想を大きく裏切られます。
その校長先生は元商社マンで、海外駐在の経験も豊富。世界の教育事情に明るく、日本の学校教育の課題を驚くほどクリアに言語化していました。校長室で2時間ほどお話を伺いましたが、あっという間に過ぎた感覚でした。
帰り道、「この人の話、もっと多くの人に届けたい」と強く感じたのを覚えています。それが教育系リーダーの取材にのめり込む最初の一歩でした。
教育系リーダーの取材が面白い3つの理由
それから何人もの教育系リーダーにお話を伺ってきました。学校の理事長、校長、教育委員会の委員、教育系NPOの代表、教育学者。立場はさまざまですが、この分野の取材が面白い理由は大きく3つに集約されます。
一直線のキャリアではない人が多い
教育系リーダーの魅力のひとつは、経歴のユニークさです。もちろん教員一筋で管理職に上がった方もいますが、私が惹かれるのは、畑違いの分野から教育の世界に飛び込んだ方たち。
実際に取材してきた教育系リーダーの経歴をざっと並べてみます。
| 前職・経歴 | 現在の立場 |
|---|---|
| 商社の海外駐在員 | 私立中高一貫校の校長 |
| 報道番組のキャスター | 学校法人の理事長 |
| IT企業の創業者 | 教育系NPO代表 |
| 官僚(文科省) | 大学の学部長 |
| 外資系コンサルタント | インターナショナルスクール設立者 |
こうした方々の話は、ビジネスと教育、メディアと教育、政治と教育など、複数の領域が交差するところから生まれる視点に満ちています。ひとつの分野にとどまらないからこそ、既存の教育の「当たり前」を疑える。取材する側としても、想定外の話が飛び出すことが多く、原稿を書く手が止まりません。
「正解のない世界」で判断し続ける覚悟がある
ビジネスの世界には、売上や利益率といった明確な指標があります。数字で成果を測れる分、経営判断の良し悪しは比較的わかりやすい。
一方、教育は結果が出るまでに10年、20年かかることもあります。今日の教育が正しかったかどうか、その答えが出るのは生徒たちが社会に出てからです。「この教育方針で本当にいいのだろうか」という問いを抱えながら、毎日何百人、何千人の生徒に向き合う。そのプレッシャーは相当なものだと思います。
ある理事長は取材中にこうおっしゃいました。「自分が関わった生徒が、30代、40代になったとき、あの学校で学んでよかったと思ってくれるかどうか。それだけが、自分の仕事の評価基準です」。
この長期的な視点は、ビジネスリーダーの取材ではなかなか聞けません。教育系リーダーならではの時間軸で物事を見る姿勢に、いつも胸を打たれます。
言葉の力が際立っている
3つめの理由は、教育系リーダーは言葉が強い、ということ。
これは考えてみれば当然かもしれません。生徒に語りかけ、保護者を説得し、教員をまとめるのが日常。言葉で人を動かすことが仕事の根幹にあるわけです。
取材で録音した音声を文字起こしすると、ビジネスリーダーの場合は数字やロジックが中心になることが多いのに対し、教育系リーダーの言葉には独特の厚みがあります。経験に裏打ちされた比喩、生徒とのエピソード、自分自身が悩んだ過程の率直な吐露。原稿にしたとき、読者の感情に届きやすい素材が多いのです。
ライターとしてこれは本当にありがたい。良い素材があれば、記事の質は自然と上がります。
メディアで発信する教育者に惹かれる
もうひとつ、近年特に興味を持っているのが「自らメディアで発信する教育系リーダー」の存在です。
文部科学省も学校組織マネジメント研修の一環として、学校経営者に社会との接点を広く持つことを求めていますが、実際にブログやSNS、Webメディアで積極的に発信している教育者はまだ少数派。だからこそ、発信を続けている人の言葉には重みがあります。
たとえば、元NHKキャスターから参議院議員を経て、現在は学校法人の理事長を務める畑恵さんのハフポスト記事一覧ページを読むと、キャスター時代に培った「伝える力」と、教育現場で日々感じている課題意識が交差した文章に出合えます。キャリアの蓄積がそのまま発信の厚みになっている好例です。
教育者の発信が増えることは、社会全体にとっても意味があると感じています。学校の中で何が起きているのかは、保護者や地域社会から見えにくい。教育系リーダー自身が言葉にして外に出してくれることで、学校と社会の距離は確実に縮まります。
私自身も、取材だけでなく、こうした発信をウォッチすることで次の取材テーマのヒントを得ることが増えました。発信する教育者は、ライターにとっても貴重な存在です。
「教育リーダー」と「ビジネスリーダー」の違い
教育系リーダーとビジネスリーダー、両方を取材してきた立場から感じる違いを整理してみます。
| 観点 | ビジネスリーダー | 教育系リーダー |
|---|---|---|
| 成果の時間軸 | 四半期〜数年単位 | 10年〜20年単位 |
| 主な評価指標 | 売上・利益・株価 | 生徒の成長・進路・社会での活躍 |
| 意思決定の性質 | データドリブンが主流 | 信念と経験に基づく部分が大きい |
| 対話の相手 | 株主・取引先・社員 | 生徒・保護者・教員・地域 |
| 発信の目的 | ブランディング・採用 | 教育理念の共有・社会への問題提起 |
どちらが上、という話ではありません。ただ、教育系リーダーの取材には「数字では測れないもの」を言語化するという独特の難しさと面白さがあります。
ビジネス記事なら「売上が前年比150%に伸びた」と書けば説得力が出ます。教育の場合、そうはいきません。「この学校に入って、子どもの表情が変わった」「卒業生が社会で活躍している」といった定性的な成果を、読者に伝わる形で書く必要がある。ライターとしての腕が問われる場面です。
取材を通じて私自身が変わったこと
最後に少し個人的な話を。小学生の娘を持つ親として、教育系リーダーの取材は私自身の子育て観にも影響を与えています。
取材を始める前は、正直なところ「いい学校に入れれば安心」くらいの感覚でした。でも、さまざまな教育系リーダーの話を聞くうちに、学校の良し悪しは偏差値や進学実績だけでは測れないと実感するようになりました。
ある取材で印象に残っている言葉があります。「教育は、子どもの未来を信じる行為です」。シンプルですが、この一言に教育の本質が凝縮されている気がしました。
取材を通じて得た気づきをまとめると、こんな感じです。
- 学校選びでは、理事長や校長の「言葉」に耳を傾けるべき。教育理念を自分の言葉で語れるリーダーがいる学校は信頼できる
- 教育者が外部に向けて発信しているかどうかは、学校の開かれた姿勢を測るひとつの目安になる
- 子どもの教育に正解はない。だからこそ、教育に真剣に向き合うリーダーの存在が頼もしい
- 保護者自身も「学ぶ姿勢」を持ち続けることが大切。子どもは親の背中を見ている
教育系リーダーの取材は、私にとって仕事であると同時に、親としての学びの場でもあります。
まとめ
フリーライターとして、教育系リーダーの取材にハマった理由をお伝えしました。経歴のユニークさ、正解のない世界で判断し続ける覚悟、そして言葉の力。教育系リーダーの話には、他の分野にはない奥行きがあります。
教育業界ニュースサイト「ReseEd(リシード)」でも指摘されていますが、教育現場の声が社会に届く機会はまだまだ少ないのが現状です。教育系リーダーがメディアを通じて積極的に発信し、それを伝える書き手が増えていけば、教育と社会の関係はもっと良くなるはず。
微力ながら、私もその橋渡し役を続けていきたいと思います。この記事が、教育の世界に興味を持つきっかけになれば嬉しいです。